メモリアル vol.05

私たちより寿命が短い愛犬や愛猫たちとの別れは考えたくないけれど、いつかは別離の瞬間がやってくる——。“その日”をどう迎えればよいのか。今回は、病気や重篤な障害を持って生まれてくる犬たちの保護活動に励む西克恵さんが、愛犬コットちゃんについて語ります。

 

vol.05 西克恵さん&コット(トイプードル、雄、享年2歳5か月)

 

幼いころから動物が好きだった私は、20代のころから近所の猫たちを保護するなど、ケガをしたり、病気になったり、不遇な環境に置かれた犬・猫を放っておけない性分でした。30代は仕事(ラグジュアリーファッションブランドのPR)と子育てで忙しく過ごしていましたが、こどもも海外に留学した現在は少し自分の時間もでき、大好きな動物たちのために何かできることをしたい、と始めたのが‟お預かりボランティア“です。

“お預かりボランティア”とは、動物を保護するシェルターから、文字通りお預かりするボランティアのこと。飼い主による飼育放棄や、なんらかの事情によりペットショップから廃棄されてしまう犬が保護されるのがいわゆるシェルターですが、ここでの収容頭数にも限界があり、またほとんどのシェルターで犬はケージで管理されています。もちろん命を救うのが最優先なので、その管理の仕方も理解しているのですが、もしその犬たちがこの先、譲渡会などで一般の方のお宅で暮らすことになれば、その前に少しでも社会性を身につけておいたほうが人も犬も幸せに違いない――そんな気持ちで、私の家ではウィルスや伝染病を持っていない健康な犬についてはケージにいれず、散歩にも出かけ、出来るかぎり一緒に暮らすようにしています。

西さんのもとへ、やってきたころのコットちゃん。

コットちゃんはその“お預かりボランティア”を始めて18匹めの子でした。コットちゃんが我が家にやってきた日、私はブログにこんな風に書いています。

 

2018年1月23日

「アプリコットカラーのトイプードル、コットちゃん800グラム。一瞬は立てるのですが、すぐにふらふらっと倒れてしまうコットちゃん。足の筋力がまったくなく、寝転んだままごはんを食べたりガムを噛んだり、オモチャで遊びます。生後1ヶ月の頃からペットショップのウィンドウの中に入ったきりでしたので、筋力が付かずに歩けなくなったのかなと思い、支えながら少しずつ歩くリハビリをし、ほんの少しですが歩けるようになりました。
でも何か首の違和感があるようで、動物病院に行ったところ、診断されたのは『環軸不安定症』。ステロイドのお薬を8日間分もらいました。大きい病院でMRIを受けて、手術するのがベストだけれど、その成功例は46〜78%の確率。でも、このまま放っておいたら呼吸困難で亡くなる危険性があるとのこと。

選択肢はふたつ。治療費がすごくかかるので本部に託して、寄付金で治療する。もしくは引き取りを前提に、全額自己負担で私が治す。もちろん、後者を選択するのですが、怖いのが成功例の確率です。小さいから手術に耐えられるのか……この8日間で選択しないといけない。
私が治したいって思うのは、自分勝手なことなのかな? 心が締め付けられる想い……絶対にコットちゃんを助けたい!」(一部抜粋・加筆)

西さんのサポートで立てているコットちゃん。

2018年4月9日

「コットちゃんの体重が1kgになりました! いままでコットちゃんはソフトコルセットがないと立つことも歩くこともできなかったのですが、外しても立って歩けるようになりました。ブラブラしていた首にもだいぶ筋肉がついてしっかりしてきました。(動物病院の)先生もすごくビックリされていて、今まで毎週検診していただいていたのですが、何か変化があった時のみ診察に来るようにと言ってもらえました。でも治ったわけではないので24時間ちゃんと看てあげてね、と。まだまだコットちゃんの呼吸困難、四肢麻痺、排尿障害、水頭症、神経麻痺になる可能性は高いそうです。でも治してもらえる手術ができる可能性に近づいたことに大喜びです。1月の末に大学病院で『3日もつか、1ヶ月もつか』と言われていたコットちゃんが、それから2か月と10日。コットちゃん、今日も元気です‼」
このころ調子がよかったコットちゃんはトイレにもふらふらしながら歩いていき、自力で用を足していました。少しずつですが体重も増えてきています。

自分で立っている! 貴重な瞬間。

2018年10月9日

「今日はかわいいアプリコットカラーのコットちゃんのお誕生日です。1歳になりました。今年の1月16日にお預かりさせてもらってから9カ月弱、安楽死させるか、1週間もつかもたないかというギリギリの選択肢から8カ月。大きくなりました! 今、1.6キログラム。スリングでの移動も重くなってきました。
あと400グラム増えたら手術の可能性が高くなります。コットちゃんはごはんが大好きです。でもすぐにお腹を壊してしまうので、量もフードの質も要注意です。最近はだんだん背骨が丸く曲がってきました。環軸亜脱臼の首をかばっている為です。後ろ足がふらついてほとんど横になっています。それでも元気でそばに居てくれます。
すっかり甘えん坊さんで、抱っこして欲しい時は高い声で教えてくれます。人が大好きですぐに抱っこ抱っこと興奮します。抱っこしてもらって嬉しいので手足をバタバタします。その姿を見るたびに涙が出そうになります。本当に良く頑張ってくれています。

台風があって気圧が変わったり、暖かくなったり、寒くなったりするたびにキュンキュン啼いて身体を痛がります。身体の丈夫なワンちゃんに体当たりでぶつけられても、近寄って仲良くします。人もワンちゃんも大好きです。コットちゃんと出会えて、大切な人やワンちゃん達と、一緒にいられることの大切さ、出会ったよろこびをたくさん教えてもらいました。
いつもコットちゃんのお蔭です。助けてくれてありがとう♡これからもずっとずっと一緒にいてね」

この日1歳を迎えたコットちゃん。環軸亜脱臼とは7個ある首の骨の1番目(環椎)と2番目(軸椎)の関節が不安定な状態になり、首の神経を圧迫することで、首の痛みや四肢の麻痺などの症状が起こる病気です。つまり、コットちゃんは首と脊髄が上手くつながっていないことによりさまざまな重篤な症状を引き起こす先天的な障害を持っていたわけです。でもその障害にもめげず、いつもひたむきに生きるコットちゃんの姿は多くの人に鮮烈な印象を残したようで、このころからたくさんの応援のコメントや、治療のための寄付を頂戴するようになりました。私は、治療のためとしていただいた寄付金はすべて治療に使っています。

バザーに来たコットちゃん(中央)はみんなの人気者に。

みなさまからの寄付金のおかげもあり再生治療を受ける事になったコットちゃんは、その後も一進一退を繰り返していました。体調の落ち着いているときには、私と友人たちが主催した「wanwan BAZAAR」にも連れていき、来てくださったファン(?)の方から声をかけていただき、うれしそうにしていました。コットちゃんは最期まで人と仲間の犬たちのことが大好きで、明るくて、意志をはっきりと表示することのできる子でした。

調子のよいときは自力でクッションから立ち上がっていたコットちゃんが、だんだんと弱り、食欲もなくなっていったのは2歳を迎えた19年の10月ごろだったでしょうか。20年2月には緊急で手術も受けたものの症状は改善せず、ついにお空へ旅立ってしまいました。

 

20年3月18日

「コットちゃん、昨日から鼻にカテーテルを通していただき、お腹いっぱいにしてもらい、朝ごはん、お昼ごはんをたくさんもらいましたが、呼吸が浅くなり、止まってしまいました。先生も必至で蘇生をしてくださいましたが、お空に上がってしまいました。
2年5か月と13日のとっても短い時間でしたが、一緒に過ごさせてもらえたことを心から感謝しております。たくさんの方々にコットちゃんという、重度の環軸亜脱臼症という理由で放棄処分されて、こんな小さい身体で一生懸命に生きてくれた保護犬を知ってもらえたこと、たくさんの応援をいただいたことに心から感謝しております。
本当に本当に幸せな時間をありがとう、コットちゃん。
助けてあげられなくて、ごめんなさい」

コットちゃんのもとには、いまも多くの人から哀悼のコメントが寄せられている。

いまも私の家には20匹程度の保護犬がおり、なかにはやはり重篤な症状の子もいます。ただ、コットちゃんほどひたむきに生きた子はそれほどいなくて、その姿は多くの方の胸を打ったのか、今も多くのコメントや応援の言葉をいただきます。日本のみならず、韓国や中国、タイやカンボジアなど外国からも連絡があり、コットちゃんの力を改めて知ったように思います。

私はさまざまな理由で放棄処分された犬たちをこれからも助けていきたく、19年10月には一般社団法人「animal life bridges」を立ち上げました。この社団法人を立ち上げた理由は、たくさんの犬を救いたい、個人で一生懸命に保護してくださっている方々とパートナーシップを結んで助け合いたい、またいつかはシェルターを作り、そこに保護犬や保護猫、シルバーのおじいちゃま、おばあちゃまと一緒に犬のグッズを作ったり、子どもたちに犬のお散歩に行ってもらったり、皆で一緒に過ごし、ご飯を食べるような場を作りたいという思いからです。人も犬もひとりでは生きていけません。助け合い、支えあいたいと思っています。

・・・

西さんに多くのことを考えさせ、行動させたコットちゃん。その生涯こそ短かったけれど、その姿はいまも多くの人の胸に焼き付き、生き続けています。

 

西克恵さんによる活動
wanwanhogo/ワンワン保護のブログ
https://ameblo.jp/wanwanhogo/


Text by Miyako Akiyama

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