メモリアル vol.07

私たちより寿命が短い愛犬や愛猫たちとの別れは考えたくないけれど、いつかは別離の瞬間がやってくる——。今回は、日本で初めてファシリティドッグとして活躍し、2018年秋に引退していたベイリーの12年余に及ぶ生涯を、認定NPO法人シャイン・オン!キッズの村田夏子さんが語ります。

 

vol.07 ベイリー(ゴールデン・レトリバー、雄、享年12歳9か月)

 

「ベイリーが今、旅立ちました」
10月1日、私は数日前から体調を崩していたベイリーの介護を手伝おうと、京浜東北線に乗っていました。まもなく着くかというころ、ベイリーが息を引き取ったと連絡が入りました。最期には間に合いませんでした。

静岡県立こども病院と神奈川県立こども医療センターで活躍していたベイリー(写真はNPO法人シャイン・オン!キッズ提供=以下同)

ベイリーの訃報については、「日本のファシリティドッグ第1号が死去」としてNHKのニュースでも流れたのでご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。ファシリティドッグとはなにか、簡単にご説明しておきましょう。ファシリティ、つまり施設で働く犬たちのことなのですが、ここでは病院で働く犬を指しています。私たちNPO法人シャイン・オン!キッズは小児がんなど重篤な病気と闘うこどもたちとそのご家族の生活が少しでも楽になるようサポートをする団体です。なかでも、入院しているこどもたちに寄り添って心のケアをするファシリティドッグを日本で広める活動には力を入れ、現在では、3頭の現役ファシリティドッグと、2頭の訓練犬を擁しています。このファシリティドッグたちは臨床経験のある看護師を専任ハンドラーとして、一緒に暮らし、日々それぞれの病院へ通勤し、こどもたちの心のケアに努めています。

ハワイで愛情深く育てられ、ファシリティドッグとしてのトレーニングを受けた。

ベイリーは、2007年にオーストラリアで生まれ、生後数か月でハワイへ。ファシリティドッグのトレーニングを受けて、1歳11か月で日本へやってきました。すぐに専任のハンドラーである森田優子と出会い、一緒に暮らし始めたので、森田はベイリーと10年余り一緒に過ごしたことになります。

2010年、静岡県立こども病院に入職したころのベイリーとハンドラーの森田優子さん。

ベイリーの毎日は規則正しいもので、平日は森田と一緒に病院へ通勤。こどもたちの病室を訪問し、辛い治療を受けるこどもに寄り添ったり、添い寝したりして過ごします。ベイリーは非常に賢く、自分の職務をしっかりと理解しているようでした。基本は森田の指示に従うのですが、訪問していたお子さんが残念ながら亡くなったような場合でも、そのお子さんがかつていた病室に自ら向かうような時もありました。ベイリーなりに、そのお子さんのことを気にかけていたんだと思います。

骨髄穿刺など辛い治療にも立ち会い、こどもたちを勇気づけた。

なかにはターミナル(終末)期にあるお子さんもいて、すでに治療の手は尽くされているのですが、ベイリーを静かになでているだけで心が安らぐと感謝されたこともありました。ベイリーの訃報に接し、全国のこどもたちや、そのご両親からたくさんのメッセージやお手紙を頂戴しています。なかには「こどもには伝えられない」というものもあり、SNSでは、こどもたちの目に触れることを意識して言葉を選びながら訃報を発信しました。

18年の引退セレモニーでは多くのこどもたちや家族、スタッフより感謝をもって送り出された。

「『名誉ファシリティドッグ』のベイリーは10月1日14時25分、お空に旅立ちました。
ベイリーは”お星さま”になって、これからもみんなのことを応援してくれます。
ベイリーからたくさんの‟ありがとう”とエールを送ります!」(一部抜粋)

引退後は悠々自適。後輩犬たちとも仲良く遊ぶ(ベイリーは中央)。

この「名誉ファシリティドッグ」とは18年10月に引退したベイリーに与えられた称号です。「引退後はどんな生活だったんですか?」とよく聞かれるのですが、実はそれまでと余り変わらない生活だったのです。森田と暮らし、後輩犬のアニーと一緒に病院へ通勤。こどもたちの病室を訪問したりはしないものの、控室でスタッフにかわいがってもらっていました。午後はボランティアさんのお宅でゆっくりくつろぎ、お友だちのわんこ達と広い公園をのんびりお散歩してから夕方に帰宅。病院へ行くことが彼にとってもルーティンになっていたわけですし、幸せな晩年だったと思います。

引退後のお散歩は介護用カートも活用してラクラク。

仕事はきっちりこなすベイリーですが、オン/オフの区別がしっかりついているプロでもありました。たとえば週末や夏休みなどのオフの時間はきっちり遊びます。泳ぐのが大好きで、湖に飛び込んだら最後、なかなか帰ってこないこともあったし、散歩のコースもしっかり自分で決めて森田を誘導したり。「自分はこうしたい」という意志、主体性のある犬でした。

最後の夏休みとなった安曇野にてベイリー(左)。元気に歩いていたのだが……。

そんなベイリーに少し異変が見られたのは今年9月。夏休みででかけた安曇野では元気に遊んでいたものの、その後体調を崩しました。それからほぼ2週間……加療していましたが、亡くなる前日朝まで食事も普通に摂っていたそうです。最期は大好きなおやつをもらい、ミルクをおいしそうに飲んで、後輩犬のアニー、タイ、マサ、ハンドラーの森田、ドッグトレーナーのマリーナ、みんなに見守られながら、穏やかに旅立ったと聞いています。私も駆けつけ、神奈川県立こども医療センターの総長もお別れにきてくださるなど、みんなで送り出すことができました。

そのとき後輩犬のアニーたちがどんな反応だったか? それが、とくに驚いたり、落胆したりする様子はなく、普通に過ごしていたんです。死をどのように理解しているのかはわかりませんが、犬という生き物は一瞬、一瞬を生きているんだなと改めて感じました。

ベイリーにお別れを告げる後輩犬のアニー(ベイリーの顔はこどもたちへの配慮で隠されています)。アニーを抱いているのが村田夏子さん。

ベイリーは10月5日14時に荼毘にふされました。前日にはSNSで「ベイリー明日、お空に昇ります。お空を見上げてベイリーを思い出していただけたらうれしいです」とお知らせしていたので、その時刻には多くのお子さんやその家族たちが一緒にお空を見守ってくださいました。そのほかにも、お花を供えたり、お線香をたいたり、ベイリーのぬいぐるみに話しかけたり、それぞれのやり方でお別れを告げてくれました。

12年9か月生きたベイリー。ハワイで愛情豊かに育てられ、日本では森田と家族になり、8年半の勤務で、のべ22,585人のこどもをケアしてきました。彼がいた日々を、たくさんのこどもが憶えてくれているといいなと願っています。

 

シャイン・オン!キッズ
ja.sokids.org/

シャイン・オン!キッズのインスタグラム
https://www.instagram.com/facilitydogs_sok/


Photos by 認定NPO法人シャイン・オン!キッズ
Text by Miyako Akiyama

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